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―A買受人が負担することとなる他人の権利―(説明、意味、解説) |
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―A買受人が負担することとなる他人の権利―(説明、意味、解説)―
売却後も、所有者が他人と締結した契約等(おもに賃借権)に基づく権利が売却により消滅しないために、買受人が負担として引き受けることとなる場合に、その他人の権利の内容がこの欄に記載されています。
売却後も効力を失わない仮処分の内容もこの欄に記載されます。 |
A−1
(1)賃借権 末尾に「上記賃借権は最先の賃借権である。」との記載がある場合
(2)賃借権 末尾に「上記賃借権は最先の賃借権である。期限後の更新は買受人に対抗できる。」との記載がある場合
―解説―
その物件につき,最も早い順位で所有者と第三者との問に賃貸借契約が結ばれており,買受人は第三者に対し,引き続きその物件を賃貸しなければならないことを意味します。この賃借権は,自己使用の必要性等の法律上の正当事由がない限り,解約することは困難です。
このことは,期間の定めのない場合も同様です。
(1)は期間の定めがない場合の記載で,(2)は期間の定めがある場合の記載です。短期賃借権と異なり,物件明細書記載の期限後(期間経過後)に更新された場合にも、賃借人は,買受人に対して賃借権を主張することができます(買受人は、更新後も更新内容に従って引き続き賃貸しなければなりません。)。
A−2
(1)賃借権 末尾に「上記賃借権は抵当権設定後の賃借権である。」との記載がある場合
(2)賃借権 末尾に「上記賃借権は抵当権設定後の賃借権である。期限後の更新は買受人に対抗できない。」との記載がある場合
―解説―
最も早い(最先順位)抵当権に後れる賃借権ですが,賃貸借の期間が短期(植栽又は伐採目的での山林については10年以下,その他の土地については5年以下,建物については3年以下)のため,法律が特に短期賃借権としてその契約を保護する場合を意味し,期間満了後は明渡しを求めることができます。
期間の定めのないものについては,買受人は原則としていつでも解約申入れができると考えられています。
ただし,解約申入れから契約が終了するまでは6か月以上の期間が必要なことから,引渡命令の対象とはならない可能性が大きいです。
明渡しについて当事者間で合意ができないときは,訴訟又は調停などの法的手段が必要となります。
(1)は期間の定めがない場合の記載で,(2)は期間の定めがある場合の記載です。期限後(期間経過後)に更新された場合には,賃借人は,買受人に対して更新後の賃借権を主張することはできず,買受人は更新に拘束されません。
(注)平成15年の民法改正(平成16年4月1日施行)により短期賃貸借保護制度は廃止されましたが,法の経過措置により,なお短期賃借権が認められる場合の記載です。
A−3
(1)賃借権 末尾に「上記賃借権は,抵当権者の同意の登記がされた賃借権である。」との記載がある場合
(2)賃借権 末尾に「上記賃借権は,抵当権者の同意の登記がされた賃借権である。期限後の更新は買受人に対抗できる。」との記載がある場合
―解説―
この賃借権は抵当権に後れますが,優先する総ての抵当権者がこの賃借権に同意していることが登記されているため,買受人は賃借人に対し,引き続きその物件を賃貸しなければなりません。賃借権の内容は登記されている範囲に限られます。
また,この賃借権は,自己使用の必要性等の法律上の正当事由がない限り,解約することは困難です。このことは,期間の定めのない場合も同様です。
(1)は期間の定めがない場合の記載で,(2)は期間の定めがある場合の記載です。物件明細書記載の期限後(期間経過後)に更新された場合にも、賃借人は,買受人に対して賃借権を主張することができます(買受人は,更新後も更新内容に従って引き続き賃貸しなければなりません。)。
A−4
(1)賃借権(不明)末尾に「賃借権の存否(占有権原の存否,占有権原の種別)は不明であるが,最先の賃借権が存在するものとして売却基準価額が定められている。」との記載がある場合
(2)賃借権(不明)末尾に「賃借権の存否(占有権原の存否,占有権原の種別)は不明であるが,抵当権に後れる賃借権が存在するものとして売却基準価額が定められている。」との記載がある場合
―解説―
現況調査や執行裁判所による審尋等の結果によっても,賃借権の有無が分からない場合や占有権原が特定できない場合があります。
左記の記載は,その賃借権を買受人が引き受けることは確定していませんが,占有者が賃借権の存在を証明すると買受人はこれを引き受けることとなるため,買受人がその不利益を彼ることのないように売却基準価額が定められたことを表しています。
左記の記載の直前に賃借権の内容が記載されている場合,その内容は、売却条件の前提とした賃借権を記載したものです。
(1)は「最先の賃借権」を引き受けるものとした場合の記載で,
(2)は「抵当権に後れる賃借権」を引き受けるものとした場合の記載です。
A−5
《期限》欄に「定めなし」とあるもの
―解説―
賃貸借について,期間の定めがない場合です。契約上の期間の定めがない場合と,建物の賃貸借で契約上は期間の定めがあったものの借地借家法26条1項により法定更新され,同条により期間の定めがないとみなされる場合を含みます。
短期賃借権の場合は,いつでも解約申入れが可能であるといわれていますが,最先の賃借権の場合は,期間の定めがある場合と同様に法律上の正当事由がない限り解約することは困難です。
A−6
敷金・保証金
―解説―
賃貸借契約終了の際,未払賃料や損害金等を控除した上、賃借人に返還すべきお金で,この返還義務は買受人が引き継ぐことになります。 いわゆる敷引き(敷金・保証金の償却)の特約があるときでも,契約時の差し入れ額が表示されます。 敷金・保証金の返還義務については評価上考慮されることもあります。この場合,買受人が現実に返還を要する敷金・保証金の額は,評価上考慮した金額等に拘束されるものではありません。
評価上考慮した金額際は評価額を定めるための一つの基準にすぎないことに注意してください。
A−7
《敷金(保証金)》欄に「○○円(売却基準価額は,左記敷金(又は保証金)の返還義務を考慮して定められている。)」と記載があるもの
―解説―
評価書記載の評価額から,執行裁判所が敷金(又は保証金)額を控除して売却基準価額を定めたことを意味します。この場合は,評価額と売却基準価額が異なることになります。
もっとも敷金(又は保証金)額を評価に反映している取扱いも多くあります。この場合は,評価額と売却基準価額が一致するので,このような記載はなされません。
買受人が現実に返還を要する敷金(又は保証金)の額は,執行裁判所の控除額に拘束されるものではありません。この控除額は売却基準価額を定めるための一つの基準にすぎないことに注意してください。
A−8
《敷金(保証金)》欄に「不明(敷金(又は保証金)○○円の主張があるが,過大であるため,適正敷金(又は保証金)額を考慮して売却基準価額が定められている。)」と記絨があるもの
―解説―
この意味は,
1、執行裁判所としては,買受人が返還義務を負うこととなる敷金(又は保証金)の額は不明であると判断したこと。
2、賃借人の主張する敷金(又は保証金)の額が○○円であること。
3、その主張に対し,契約内容や取引相場から判断して,敷金(又は保証金)の額が過大な金額と判断できること。
4、売却基準価額を定めるにあたっては,契約内容や取引相場から判断して適正と考えられる金額を一応買受人が返還義務を負う敷金額と想定して考慮したこと。
ということです。
この場合,買受人が具体的に返還義務を負う額は買受人と賃借人間の協議により定めることになります。その場合,売却基準価額を定めるうえで考慮した適正敷金(又は保証金)額に拘束されるものではありません。
協議が調わないときは,訴訟又は調停などの法的手段が必要となります。
なお,買受人が返還義務を引き受けないとされた敷金(又は保証金)については,賃借人と本件所有者との間で解決されることになるでしょう。
A−9 特約
―解説―
買受人に不利益となると一般に考えられる特約があるときに記載され,すべての特約が記載されるものではありません。
A−10 地上権
―解説―
地上権とは,他人の土地の地上又は地下において建物その他の工作物又は松林の目的となる樹木等を所有するため,その土地を使用することができる権利です。
この権利が最も早い(最先順位)抵当権よりも先に登記されている場合は,買受人がその負担を引き受けることになり,地上権の内容が記載されます。
ここでいう地上権は当事者間の設定行為により設定されたもので,競売の売却により成立する法定地上権は含みません。
A−11 地役権
―解説―
地役権とは,他の土地の利用価値を増すために,売却対象土地を利用する権利です。例えば,他の土地のため,売却対象土地を通行したり,その土地から引水したり,その土地に一定の建物建築をさせなかったりすることを内容とします。
そしてこの権利か最も早い(最先順位)抵当権よりも先に登記されている場合は,買受人が地役権の負担を引き受けることになり,地役権の内容が記載されます。
この場合,他の土地のために地役権の負担のある土地を承役地といい,利用価値が増す土地を要役地といいます。ここでの記載は,売却対象土地が承役地の場合です。
地役権の負担のある土地の買受人は、要役地のために目的に掲げられた一定の行為(通行や引水など)を受忍したり,一定の利用をしない(建築をしないなど)義務を負担することになります。
A−12 留置権
―解説―
留置権とは,物(売却対象物件)の占有者が,その物に関して生じた債権(例えば修繕費など)を有している場合又は商人間の商取引により生じた債権(例えば売買代金など)を有している場合に,その債権の弁済を受けるまでその物の引渡しを拒絶することができる権利で,契約等によらず法律上当然に発生する権利です。
そして,この留置権は競売による売却によっては消滅せず,買受人がその負担を引き受けることになります。
よって,買受人は,ここに表示された債権を留置権者に弁済しなければ留置権者から不動座の引渡しを受けることができません。
買受人が現実に弁済すべき額は,遅延損害金等が加算され,ここに表示された債権額よりも多くなることもあります。
なお,留置権により担保される債権額は,執行裁判所が売却基準価額を定めるにあたり考慮されています。
A−13 質権
―解説―
買受人が負担する質権は,最先順位(扱先の抵当権より先順位の登記があるもの)で,使用収益をしない旨の定めのないものが対象で,この欄に記載されます。この場合,質権の存続期間内は,質権者の債権を弁済して質権を消滅させるなどの特別な事情がない限り,買受人は質権者からの不動産の引渡しを受けることはできません。
なお,存続期間は10年の範囲で更新されることがあります
A−14 仮処分
―解説―
買受人が負担することになる仮処分がある場合の記載です。これは,本件所有者以外の者から本件所有者に対し仮処分がなされている場合であり,買受人はその仮処分の内容の負担を引き受けることになります。
また,披保全権利(仮処分により保全される権利)に関して仮処分権利者との紛争の当事者になります。今後の経緯によっては,買受人は不動産に対する権利に重大な制約を受ける可能性もあります。
A−15 この欄に「なし」と記載してあるもの
―解説―
その物件について買受人が負担しなければならないとされる他人の権利がないと認められる場合です。
なお,現実の占有状況は「物件の占有状況等に関する特記事項」欄及びそれに関する説明をご覧ください。 |
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